大阪地方裁判所 昭和40年(わ)130号・昭39年(わ)4591号・昭40年(わ)547号・昭40年(わ)129号 判決
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〔判決理由〕被告人は<中略>昭和三九年一月三〇日午後一一時四〇分頃、同市日吉町二丁目四一番地若狭英次方前において、同家に北接する木造二階建家屋の板塀に接して置いてあつたポリエチレン製ごみ箱上に積んで捨ててあつたハトロン紙(建具の包装紙で幅一米横二米位のもの五、六枚位を丸めたもの)に所携のマツチで点火してこれに放火したところ同人方家人に発見されたため右ハトロン紙を焼燬した程度で消し止められたが、そのまま放置すれば右ごみ箱に接着する板塀ならびに家屋および右若狭方居宅等に延焼し大事に立至る状態を発生させ、よつて公共の危険を生じさせたものである。<中略>
なお、検察官は前記判示第三の(九)の事実に適用すべき罰条として刑法第一一〇条第一項を掲げているのであるが当裁判所は次の理由により右事実には同法第一一〇条第二項を適用すべきものと考える。
即ち右事実に関する前掲各証拠によれば、前認定のとおり、被告人の放火後早期に発見消火されたため、本件において、完全に燃焼しているのは、前記若狭英次が前記ポリエチレン製ごみ箱の上に丸めて置いてあつたハトロン紙約五、六枚のみであつて、その外には右ごみ箱のふたとこれに接着する板塀は少し焦げた程度であり、いずれも独立燃焼の域に達しなかつたことが認められる。
刑法は、同法第一一〇条の放火の未遂を処罰する規定を置いていないから、前記ごみ箱のふたと板塀は独立燃焼の域に達していないこと前示のとおりであつてみると、この点をとりあげて同条違反の責を問うことができないのはもちろんである。問題はハトロン紙五、六枚の焼燬であるが、前掲証拠によると、右のハトロン紙は若狭英次が捨てる意思で、ごみ箱の上に放置していたものであることが明らかである。
そもそも刑法第一一〇条が第一項において同条二項の自己の所有物件に対する放火の場合より法定刑を重くしている理由は、放火罪が公共危険物であると同時に財産権侵害の性質をもあわせて持つていることが考慮されているからであると考えられる。所有者が所有権を放棄した物は、これを焼燬しても財産権侵害を理由に刑を加重すべきではないことはいうまでもないから、放火犯人所有の物に準じて取扱うのが妥当である。そうしてみれば、前記ハトロン紙を焼燬して、公共危険を生ぜしめた被告人の所為に対しては、同条第二項を適用すべきものといわなければならない。
以上の理由で本件訴因に刑法第一一〇条第二項を適用した。(松浦秀寿 小河巌 安藤正博)